2016年9月に公開され累計動員177万人、興行収入約23億円を記録した大ヒット作『映画 聲の形』。
本作は、いじめや聴覚障がい、不登校などセンセーショナルな題材を作品に取り入れ、他者とのディスコミュニケーションを丁寧に描いたストーリーが話題を集めました。
そんな『映画 聲の形』を鑑賞した方の中には、
- 石田は硝子をなぜいじめた?
- 硝子が死のうとした理由が分からない
- 最後の手話の意味は何?
などといった疑問を抱いた方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、『映画 聲の形』のあらすじや登場人物を紹介するとともに、ネタバレを含めて本作を徹底解説していきます。また、タイトル「聲の形」から本作が伝えたかったことについても考察しているので、ぜひ最後まで読み進めてみてください!
『映画 聲の形』の作品概要
『映画 聲の形』作品概要 | |
公開 | 2016年9月17日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | 山田尚子 |
脚本 | 吉田玲子 |
制作 | 京都アニメーション |
原作 | 大今良時『聲の形』 |
主題歌 | aiko『恋をしたのは』 |
キャスト | 石田将也(入野自由)、西宮硝子(早見沙織) 西宮結弦(悠木碧)、植野直花(金子有希) 永束友宏(小野賢章)、川井みき(潘めぐみ) 佐原美代子(石川由依)、真柴智(豊永利行) |
『映画 聲の形』は、2016年9月17日に公開されたアニメーション映画です。
累計発行部数300万部を突破している大今良時さんの大ヒット漫画を原作としており、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『氷菓』で知られる京都アニメーションが制作を担当。
『リズと青い鳥』や『たまこラブストーリー』などを手掛けた山田尚子さんが監督を務めました。
山田尚子監督は、登場人物の心情をちょっとした表情やしぐさ、周囲の風景描写で語らせるような演出が高く評価されており、本作では「第40回 日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞」「第26回 日本映画批評家大賞 アニメーション部門作品賞」「第20回 文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門優秀賞」などを受賞しています。
【ネタバレなし】『映画 聲の形』のあらすじを短く簡単に紹介
退屈することを何よりも嫌うガキ大将の少年・石田将也。ある時、彼の学校に聴覚障害を持つ少女・西宮硝子が転校してくる。硝子の存在に好奇心を抱き、そのおかげで退屈な日々から解放された将也だったが、硝子との間に起こったある出来事をきっかけに、将也は周囲から孤立してしまう。それから5年。心を閉ざして生き、高校生になった将也は、いまは別の学校へ通う硝子のもとを訪れる。
引用元:映画.com『映画 聲の形』
『映画 聲の形』は、元いじめっ子の主人公・石田将也と聴覚障がい者のヒロイン・西宮硝子を中心とした思春期の少年少女の成長を通し、他者とのコミュニケーションの大切さと困難さを描いた青春群像劇です。
主人公の将也は、小学6年生のときに転校してきた硝子をいじめたことがきっかけとなり、逆に周囲から孤立することになってしまいます。それから5年が経ち、高校3年生になった将也は自殺することを考えていました。
死ぬ前に会っておこうと考えた将也は、硝子が通う手話サークルを訪れるのですが……。
いじめや聴覚障がいなどセンセーショナルな題材を扱いつつも、人間の持つ孤独や絶望、純愛や友情など普遍的なテーマを描いたストーリーによって、人が互いに理解し合うことの難しさと尊さが表現された作品となっています。
『映画 聲の形』の登場人物
『映画 聲の形』の主要な登場人物をご紹介していきます。
石田将也(声優:入野自由)
引用元:『映画 聲の形』
本作の主人公。小学生時代は粗暴なガキ大将的立ち位置にいる活発な少年でした。
聴覚障がいをもつ硝子が転校してくると、好奇心から彼女をからかうようになり、次第にいじめへと発展。しかし、エスカレートし過ぎた硝子へのいじめは大人を巻き込む大きな問題となり、その責任を全て押し付けられた将也は、それまでとは逆にクラスメイトたちからいじめられる側になってしまいました。
それから5年。周囲から孤立し、自己嫌悪と罪悪感に心を閉ざした将也は、過去に母親が立て替えた硝子の補聴器代を返済して自殺しようと考えます。
西宮硝子(声優:早見沙織)
引用元:『映画 聲の形』
本作のヒロイン。先天性の聴覚障がい者で、日常的にコミュニケーションの困難さを感じてきました。そのため他人との摩擦を避けようと愛想笑いをする癖があります。しかしそれが逆に周囲に不信感を与えてしまい、結果的に将也のいたクラスではいじめられてしまうことになりました。
自己肯定感が低く、自分に障がいがあるために周囲の人間が不幸になっていると感じています。
西宮結弦(声優:悠木碧)
引用元:『映画 聲の形』
硝子の妹で、不登校の中学生。
姉である硝子を慕い守るために、強く振る舞おうと考えています。少年のような髪型や服装をしており、一人称は「オレ」。
写真撮影を趣味としており、いつも首から一眼レフカメラを下げています。撮影するのはもっぱら“生物の死骸”で、そこには硝子に「死にたい」と思わないでほしいという理由があります。
植野直花(声優:金子有希)
引用元:『映画 聲の形』
小学校時代の将也のクラスメイト。
硝子が転校してきてからは、担任の竹内からさまざまなサポートを任され、はじめのうちはしっかりとそれをこなしていました。
しかし、硝子に関わることで生じる問題のしわ寄せが自分に回ってきたことでフラストレーションを溜めていき、結果的には将也とともに硝子へのいじめに加担しました。
現在は、将也とは別の「太陽女子学園」に通っています。
永束友宏(声優:小野賢章)
引用元:『映画 聲の形』
将也と同じ高校に通う友人。モコモコ頭と小柄で小太りな見た目が特徴。
不良生徒に自転車を奪われそうになっていた際に将也に助けられ、代わりに貸し出したために盗まれた将也の自転車を探してきたことをきっかけに友達となりました。
将也のことを「石田君」「将也」「やーしょー」などと呼んでいます。
川井みき(声優:潘めぐみ)
引用元:『映画 聲の形』
小・中・高と学級長を務める優等生で、常に周囲の評価を気にして八方美人的な態度を取る女生徒です。眼鏡をかけていましたが、高校ではコンタクトレンズに変え、髪形も変えるなど、外見にも気を使うようになりました。将也と同じ学校に通い続けており、高校では同じクラスになります。
表向きは真面目で親切そうに見える一方で、周囲からの評価を守るために保身的な行動を取ることが多く、いざというときには他人を悪者にする傾向があります。硝子に対しても、直接的ないじめは行わなかったものの、陰では植野と共に悪口を言っていました。
自分が硝子をいじめていたという自覚はなく、むしろ障がい者である硝子との関わりを「良い経験」として捉えています。
佐原美代子(声優:石川由依)
引用元:『映画 聲の形』
将也と硝子の小学校時代のクラスメイト。控えめで心優しい性格の女生徒です。
硝子が転校してきた際、硝子のために手話を覚えようと努力しますが、その行動がクラスメイトから「点数稼ぎ」と罵られるようになり、卒業式の日まで不登校になってしまいます。
真柴智(声優:豊永利行)
引用元:『映画 聲の形』
将也のクラスメイト。性格は基本的に穏やかで、いつもニコニコしています。
『映画 聲の形』のストーリーをネタバレ解説&考察
ここからは、『映画 聲の形』を鑑賞した方が気になるであろう点や意味深なシーンについて、ネタバレを含みつつ徹底解説&考察していきます。
将也は硝子をなぜいじめたのか?
引用元:映画『聲の形』
将也が硝子をいじめた理由は、退屈を嫌っていた将也の前に、理解できない行動を取る聴覚障がいをもつ硝子が現れ、好奇心を抱いたからとされています。
たしかにこれも1つの理由であったのでしょう。しかし、作中には他にも理由があったのではないかと受け取れる描写がありました。
硝子が転校してきたことで、クラスメイトたちの日常は変化することになります。
席も近く、クラスの中で目立つ存在だった植野は、担任の竹中から硝子のサポートを任され、硝子の代わりにノートを取ることが増えます。また、合唱コンクールの練習では耳の聞こえない硝子がいることで練習が上手く進みません。
こうした小さなフラストレーションをクラスメイトたちが溜めていくのを、将也は感じ取っていました。
そして将也は硝子に対し、「もっとうまくやらねえと、うざがられちゃうんじゃねえの?」と優しさとも取れる言葉をかけますが、硝子にはそれが伝わりません。この出来事を機に、将也は硝子に対していじめを行うようになったと捉えられます。
いじめは決して肯定される行為ではありません。しかし将也の取った行動は残酷で極端なものでありましたが、ある意味ではクラスメイトのためを思っての行為だったのかもしれません。
植野は本作の裏ヒロイン?硝子にきつく当たる理由
植野直花は『映画 聲の形』において、表面的には反感を抱かれやすいキャラクターですが、実は非常に複雑で魅力的な「裏ヒロイン」としての役割を果たしています。彼女が西宮硝子に対して厳しい態度を取る理由には、複数の要因が絡んでいます。
まず、植野は小学生の頃から石田将也に好意を抱いていました。しかし、硝子が転校してきたことで、日常は変化し、結果として将也がクラスメイトからいじめられるようになりました。そのため、硝子を将也の不幸の原因と見なしており、彼女に対する嫌悪感を抱いています。この感情が、植野が硝子にきつく当たる大きな理由の1つです。
さらに、硝子がすぐに「ごめんなさい」と謝ることに対しても、植野は不満を感じています。植野は硝子のそれを、相手とのコミュニケーションを拒絶し、本当に理解し合おうとする努力を放棄している態度だと捉えています。この姿勢が、正直で直情的な性格の植野には受け入れ難く、硝子に対してさらに厳しく当たる理由となっています。
こうした背景を考えると、植野直花は単なる「悪役」ではなく、感情的な葛藤や深い思いを持つキャラクターであることがわかります。口が悪く、時には強引に見える植野ですが、実は人間らしい弱さや切なさを抱えた裏ヒロイン的存在として、物語に大きな影響を与えているのです。
なぜ硝子は鯉に餌をやるのか?
引用元:映画『聲の形』
作中、硝子が鯉に餌をやる場面が幾度か描かれています。この行動にはどのような意味があるのでしょうか?
鯉が泳いでいる水中は、音が曇り、外の世界の音がほとんど聞こえない場所です。硝子は生まれつき聴覚障がいをもっており、他の人たちが普通に聞こえる音が彼女には届かないため、水中の環境と自分自身を重ね合わせていたのではないかと考えられます。
鯉に餌をやる行為は、硝子が自分の中にある孤独や疎外感を鯉と共有しようとしていた表れなのかもしれません。
将也と硝子は似ている?「自分が全部悪い」の功罪
石田将也と西宮硝子は、どちらも「自分が全部悪い」と考える傾向がありますが、なぜこのような思考に至ったのか、そしてそれが彼らの間にどのような共通点を生み出しているのかを理解することが重要です。
将也は硝子に対するいじめが原因で、自分の行為が周囲に大きな問題を引き起こしたことを痛感し、それが深い罪悪感へと繋がりました。その後、彼自身がいじめの対象となったことで、「自分が全部悪い」と自らを責めるようになり、その思考から抜け出せなくなってしまいます。
硝子は幼少期から聴覚障がいをもち、他人に迷惑をかけることが多いと感じていました。そのため、常に自分を責め、「ごめんなさい」と謝ることで他者とのトラブルを避けようとするようになりました。こうした考え方によって、硝子は他者とのコミュニケーションを円滑にしようとする一方で、自己否定的な思考を深めていきます。
このように、2人は異なる背景を持ちながらも、どちらも自分を責めることで現実と向き合うことを避けるという共通点を持っています。「自分が全部悪い」という考え方は、他者や状況を深く考える必要がなくなり、ある意味では問題から逃避しているとも言えます。この思考は一時的には心の安定をもたらすかもしれませんが、長期的には自己成長や人間関係の改善を阻害するリスクも伴うでしょう。
本作では、似た思考パターンを持つ将也と硝子の2人が、その思考から解放されるまでが描かれているのです。
どうして硝子は死のうとした?
硝子が自ら命を絶とうとした背景には、彼女が自分の存在が周囲の人々を不幸にしていると強く感じていたことがあります。彼女の心の中には、他人に迷惑をかけているという強い罪悪感が積もり重なっていたのです。
硝子は将也が自分のせいで不幸になったと感じています。硝子は自分が転校してきたことで、結果的に将也がガキ大将からいじめられる側になり、その後の彼の人生を大きく変えてしまったと考えています。
また高校生になった将也が自分と再び関わったことで、彼が新たに築いた友人関係さえも壊れてしまったと感じています。硝子は、自分の存在が将也にさらなる苦しみを与えてしまったと強く思い込んでいたのです。
他にも、小学生時代に佐原が不登校になってしまったことや、結弦が難儀な生き方をしていることなど、さまざまなことに対して、硝子は「自分が全ての原因であり、自分さえいなければ皆が幸せになれる」と考えていました。
このように、硝子が死のうとした理由は、自分が周囲の不幸の根源だと信じ込んでしまったことにあります。彼女の心の中で積み重なった罪悪感や孤独感が、最終的に彼女を絶望へと追い込んでしまったのです。
川井みきがうざい?彼女が嫌われる理由
『映画 聲の形』の中で、その言動が多くの視聴者から嫌われることとなったキャラクター・川井みき。本作が地上波にて放送された際には、SNS上で「#川井を許すな」「#川井しゃべるな」というハッシュタグがトレンド入りするなど、彼女への批判が集まりました。
なぜ川井みきはこれほどまでに嫌われたのか考えてみます。
まず、川井には自分が追い詰められると相手を悪者扱いする傾向があります。硝子へのいじめがエスカレートし、学級会で問題が取り上げられた際、川井は全ての責任を主人公の将也に押し付けました。
将也がいじめの責任を一人で負わされる中、川井は涙を流しながら自分の無実を訴えました。このような自己保身の態度が、視聴者の反感を買う大きな要因となっています。
加えて、川井は他人にバレないように硝子をいじめていました。小学校時代、合唱の練習中に硝子が歌い出しのタイミングを掴めないことを知りながら、わざと口パクで彼女を惑わせる描写があります。
この行動は、表面上は友好的に見える彼女の裏の顔を象徴しています。硝子は補聴器を使っているため、音楽のタイミングを掴むのが難しく、川井の口パクに頼っていましたが、川井はそれを利用して硝子を困らせ、それを自ら助けることで自分の評価を上げようとしたのです。
こうした川井の行動は、視聴者にとって非常に不誠実に感じられ、強く嫌われる理由となっています。
また、川井の行動は視聴者にとって非常にリアルであり、現実世界でも同様の行動を取る人々がいることを思い起こさせます。これが、彼女への共感と同時に強い反感を引き起こす要因となっているのではないでしょうか。
川井の表面的な優しさと裏腹に隠された偽善的な態度、そして自己保身のために他人を犠牲にする姿勢が、鑑賞する者に強い反感を抱かせるのです。
橋の上で硝子が見せた最後の手話の意味は何?
引用元:『映画 聲の形』
硝子を助けようとした将也が転落してしまう事故から数日後、意識を取り戻した将也は硝子に会うために橋の上へ向かいました。
橋の上で再会した2人は、これまでのことを話し合います。
将也がこれまでのことを硝子にちゃんと謝ると、硝子は私が変わらなかったからと自分を責めます。それに対して将也は「生きるのを手伝ってほしい」と伝え、硝子の手を取り「友達」の手話を作りました。
すぐにキモいことをしたと言って照れる将也を見て、硝子は笑った後に小指と小指を繋ぐ手話をしました。
この手話は「約束」や「必ず」という意味です。つまり、「あなたが生きることを手伝うのを約束する」ということを硝子は伝えたかったのでしょう。
前に進むことを決めた将也に、硝子をちゃんと生きることを選んだことが分かる名シーンとなっています。
タイトル「聲の形」から本作が伝えたいことを考察
本作のタイトル『映画 聲の形』に対して、なぜ“声”ではなく“聲”なのかという疑問を抱いた方も多いのではないでしょうか?
過去に原作者の大今良時さんが、題名を「聲」の字にしたのは、調べた際にそれぞれ「声と手と耳」が組み合わさってできているという説があることを知ったためであることと、「気持ちを伝える方法は声だけじゃない」という意味を込めて「聲」にしたと語っています。
本作には、言葉だけでは伝えきれない思いや、言葉が通じないことから生じる誤解が描かれています。しかし、それと同時に、手話や視線、行動など、言葉以外の方法で理解し合おうとする登場人物たちの姿が描かれ、彼らが少しずつお互いを理解し、心を通わせていく過程が丁寧に描かれていました。
『映画 聲の形』は、他者とのコミュニケーションの困難さと可能性、その両面を伝えたかったのではないかと考えられます。
声に限定されない新たなコミュニケーションの形を探り、他者と理解し合うことを諦めないことの大切さを再認識させられる作品となっているのです。
『映画 聲の形』ネタバレ考察まとめ
本記事では、『映画 聲の形』について、作品の見どころやネタバレを含む考察をお伝えしました。
2024年8月30日に最新作『きみの色』が公開された山田尚子監督の代表作である『映画 聲の形』。いじめや聴覚障がいなどセンセーショナルな内容ばかり注目される作品ですが、その本質はディスコミュニケーションという普遍的なテーマを扱った物語にあるのだと思います。
約2時間という尺の都合上描ききれていないサブキャラクターたちの背景などを踏まえると、また異なる印象を抱くこともできる作品なので、気になる方はぜひ原作漫画も手にとってみてください。