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『天気の子』ネタバレ考察!物語のラストに込められたメッセージは何だったのか?

天気の子_考察

2022年11月11日に全国公開された最新作『すずめの戸締り』が大ヒットを記録し、注目を集めている新海誠監督。そんな新海誠監督の代表作の1つである『天気の子』は、興行収入140億円を超える大ヒット作品で、2019年の興行収入ランキングで堂々の1位を記録しています。

『君の名は。』でタッグを組んだRADWIMPSが、再び主題歌を担当したことでも話題になりましたよね。

しかし鑑賞した方の中には、

  • 「ラストシーンの意味が分からなかった」
  • 「銃や水の魚ってなんだったの?」
  • 「須賀圭介の涙の理由は何?」

などといった疑問を抱いた方も多いのではないでしょうか。

そこで当記事では、映画『天気の子』のあらすじやキャストを紹介するとともに、ネタバレを含めたストーリー解説をお伝えします。さらに作中に登場する謎とこの作品に込められたメッセージを徹底考察していくので、ぜひ最後まで読み進めてみてください!

映画『天気の子』概要

天気の子_タイトル画像
引用元:映画『天気の子』

『天気の子』は、2019年7月19日に公開された映画です。

日本興行収入は140億円を超え、2019年の興行収入ランキングでは堂々の1位を記録した大ヒット作品です。

監督を務めたのは『君の名は。』や『言の葉の庭』など、数々のヒット作を世に送り出してきた新海誠監督。

新海誠監督作品は、その精緻に描かれた美しい風景が国内外から評価されており、これまでに「毎日映画コンクール アニメーション映画賞」や「ロサンゼルス映画批評家協会賞 長編アニメーション賞」など、数々の賞を受賞しています。

そんな新海誠監督の代表作『天気の子』の簡単なあらすじと、登場人物やキャストについて紹介していきます。

【ネタバレなし】映画『天気の子』短く簡単にあらすじを紹介

『天気の子』は、離島から家出して東京にやってきた主人公・帆高と不思議な力を持つ少女・陽菜に起こるドラマを描いた映画です。

高校1年生の森嶋帆高は、身一つで家出をして東京にやってきます。しかし、生活はすぐに困窮し、孤独な日々を送ることに。どうにも立ちいかなくなった帆高は、東京に向かうフェリーで知り合った男・須賀圭介に連絡を取り、彼が経営する小さな編集プロダクションでライターのバイトを始めることになります。

異常気象で雨が降り続ける毎日。そんな中、帆高は一人の少女・天野陽菜と出会います。陽菜には不思議な能力があり、祈るだけで天気を変えることができました。しかしその力には代償があり……。

「家出少年が都会に出てきて女の子と出会い、困難な状況や運命に翻弄されていく」という、王道とも言えるストーリー展開と、「実写なのでは?」と疑うほどリアルに描かれた東京の街。そこに「降り続ける雨」や「天気を変える力を持つ少女」といったファンタジー要素が加わることで、「現実」と「非現実」のバランスが取れた独特の世界観が表現されたエンタメ作品となっています。

『天気の子』登場人物とキャスト

映画『天気の子』に登場する人物たちは、それぞれが個性的で存在感があります。また、キャラクターたちに命を吹き込んだキャスト陣も、実力と人気を兼ね備えた人ばかりです。

物語の終盤、困難を前にしても不器用ながら必死に足掻く主人公・帆高の声を演じたのは、俳優の醍醐虎汰朗さんです。

約2000人の中からオーディションで選ばれた醍醐さんは、元々新海監督作品『君の名は。』のファンで、劇場へ3回も足を運んだそうです。

母親を亡くし、弟の凪の面倒をみるたくましさを持ったヒロイン・陽菜の声を演じたのは女優の森七菜さん。醍醐さん同様オーディションで選ばれました。新海監督からは「天気みたいなところが陽菜と似ている」と言われたそうです。

また、作中でキーパーソンとなる須賀圭介には人気俳優の小栗旬さんが起用されているほか、本田翼さんや吉柳咲良さんをはじめ、豪華な俳優・声優陣が脇を固めています。

【ネタバレあり】『天気の子』あらすじ紹介

ここからは、映画『天気の子』のストーリーをネタバレありで紹介していきます。
すでに映画を見たという方も、もう一度物語を振り返っておくことで、より考察を楽しく読むことができると思います。

【あらすじ①】家出した帆高は東京で暮らし始める

高校1年生の森嶋帆高は家出を決心し、生まれ育った離島・神津島から東京へ向かうフェリーに乗り込みました。

フェリーのデッキで豪雨にのまれた帆高は、足を滑らせ落下しそうになったところを同乗していた須賀圭介という男に助けられます。

到着した夏の東京は、異常気象に見舞われ何日間もずっと雨が降り続いていました。

そんな東京での暮らしは想像以上に厳しく、高校生で身分証も持っていなかった帆高はアルバイトとして雇ってもらうこともできませんでした。はじめこそネットカフェで寝泊りをするも所持金は減っていく一方。

そんな時、警察官に遭遇し補導を恐れ逃げ出した帆高は、偶然にも雑居ビルのゴミ箱の中から拳銃を拾います。帆高は拾った拳銃をお守り代わりに持っておくことにしました。

行く当てのない帆高はファストフード店で飲み物だけを頼み、今後について悩んでいました。そんな帆高を見かねて、そのお店でアルバイトをしていた少女がハンバーガーをそっと渡します。少女の厚意を受けた帆高は、フェリーで出会った須賀の元を訪ねる決心をします。

須賀に渡された名刺を頼りに、彼が経営する編集プロダクションを訪れた帆高は、住み込みかつ食事つきという条件に乗せられて、そこで働き始めます。

須賀の姪でアシスタントとして働く夏美と共に、都市伝説として噂になっていた「100%の晴れ女」についての調査を進める帆高。

帆高は東京での生活に少しずつ慣れていき、仕事にもやりがいを感じていました。そんなある日、帆高はいかがわしい仕事の話をする男たちにまとわりつかれている少女を見かけます。その少女は、以前帆高にハンバーガーをくれた少女でした。

放っておけず少女の手を引いて逃げ出した帆高でしたが、すぐに男たちに追いつかれてしまいます。男から殴られたうえに「少女とは話がついている」と聞かされ動揺した帆高は、お守りとして持っていた拳銃を男に向け、引き金を引きました。

弾丸が発射され轟音が響き渡ったことで、おもちゃだと思っていた拳銃が本物だったと気付いた帆高。男たちが呆気に取られている隙に、少女は帆高の手を取り逃げ出します。

逃げ込んだ廃ビルで少女から「人を殺していたかもしれない」と非難された帆高は、自身が犯しかけた過ちの重大さに恐くなり、拳銃を投げ捨てます。

少女は天野陽菜と名乗り、ファーストフード店のアルバイトをクビになったので仕事を探していたことを打ち明けます。

陽菜に誘われ廃ビルの屋上にやってきた2人。屋上には祠がありました。

陽菜が「今から晴れるよ」と言い手を合わせると、降り続けていた雨がピタリと止み、2人のいる一帯に日の光が差しました。彼女こそが、祈ることで晴れを呼ぶことができる「100%の晴れ女」でした。

【あらすじ②】陽菜たちと「晴れ女」の仕事を始める

後日、帆高はお金に困っていた陽菜に「晴れ女」の能力を生かしたビジネスを持ちかけます。帆高が思いついたアイディアは、「晴れてほしいと願う人から依頼を受け、天気を晴れにすることで報酬をもらう」というものでした。

はじめは消極的だった陽菜も、生活のためにと決心し、2人でWebサイトを作り上げると早速、依頼が舞い込んできました。

帆高と陽菜は、弟の凪も巻き込んで依頼をこなしていきます。陽菜が祈ると必ずその周辺一帯は、一時的に晴れになりました。連日降り続く雨に人々は辟易としており、「晴れ女」の評判は瞬く間に広まります。

人々を笑顔にできる「晴れ女」の仕事に喜びを感じていた陽菜。

しかし、大きな花火イベントの依頼を受けて晴れを作り出した際にテレビに映ってしまったことがきっかけで、これまで以上に依頼が殺到してしまいます。

度重なる祈りによって陽菜が疲弊しているように見えた帆高は、すでに引き受けていた2件の依頼を最後に、しばらく休業することを決めました。

帆高は依頼で訪れた老婦人・冨美の家で、陽菜が母親を亡くしていたことを知ります。そして冨美の孫・瀧(『君の名は。』の主人公)との会話で、彼女の誕生日が近いことに気が付きました。

帆高は陽菜への誕生日プレゼントを買うために、宮水三葉(『君の名は。』のヒロイン)が働くアクセサリーショップを訪れます。悩みぬいた末に指輪を購入した帆高。「もらった相手はうれしいはず」という三葉の言葉に背中を押され、最後の依頼が終わった後に渡そうと決意します。

最後の依頼の相手は、なんと須賀でした。死別した妻・明日香との娘・萌花と公園で会うための依頼でした。

萌花は現在祖母のもとで育てられています。喘息もちで雨の日は体調がすぐれないため、なかなか会わせてもらえない須賀が、「晴れ女」に依頼していたのです。

須賀は、夏美や帆高、陽菜や凪と共に、娘との再会を楽しみます。

そんな中、「晴れ女」の記事の取材で情報を集めていた夏美は、「晴れ女」にまつわる言い伝えを彼女に話します。

1年ほど前に、以前帆高と共に逃げ込んだ廃ビルの屋上にある祠で、死を間近に控えた母ともう一度、晴天の下を歩きたいと祈った陽菜は、「晴れ女」の力を手に入れたのでした。

そこへ帆高を探している警察が訪ねてきます。帆高には故郷の両親から捜索願が出されていました。それに加えて、以前陽菜を守ろうとして拳銃を撃った帆高の姿が、防犯カメラの映像に映っており、帆高には銃器所持の疑いも掛けられていました。

帆高のことをなんとか誤魔化す陽菜でしたが、子どもだけで生活をしていることを指摘されてしまいます。

凪を連れ陽菜のアパートの近くまで来ていた須賀は、事務所に警察が来て、自分が未成年誘拐で疑われていることを帆高に話します。

娘と共に暮らすための申請をしている最中だった須賀は、トラブルに巻き込まれることを恐れ、帆高に親元に帰るよう諭して退職金を渡します。

行き場を失った帆高は、陽菜と凪と共に逃げることを決意しました。

天気はさらに荒れ、8月にもかかわらず雪が降り始めます。異常気象に見舞われながら、3人は東京の街を彷徨います。身分証さえ持っていない帆高たちは、ホテルをたらい回しにされ、途中警察に見つかりながらも逃げ切り、ようやくラブホテルに身をひそめることができました。

【あらすじ③】「晴れ女」の人柱としての宿命

須賀たちと食事をして帰ると言う凪を残して、帆高は陽菜の帰りを家まで送ります。

帰り道、帆高が陽菜に指輪を渡そうと声をかけたとき、陽菜の周りに水の魚が舞っているのに気が付きます。その瞬間突風が吹き、陽菜は宙を舞い、帆高の頭上をゆっくりと降りてきました。

アパートについた陽菜は、帆高に「晴れ女」になった経緯を話します。

3人は楽しいひとときを過ごします。日付が変わり誕生日を迎えた陽菜に、帆高は指輪をプレゼントします。嬉しそうに笑う陽菜でしたが、不意に夏美から聞いた「晴れ女」にまつわる言い伝えを話し始めます。

「晴れ女」は「天気の巫女」と呼ばれ、狂った天気を元に戻すために犠牲となる人柱であることを聞かされ、ひどく動揺している帆高に、陽菜は自分の体を見せます。

祈ることで晴天を生み出していた陽菜の体は、その代償に透明になり始めていました。

陽菜の話を受け入れられない帆高は、陽菜を強く抱きしめます。

【あらすじ④】銃を手にした帆高が選んだ世界

翌朝、目を覚ました帆高は陽菜がいなくなっていることに気が付きます。帆高は慌てて部屋の中を探しますが、陽菜の姿はありません。

そこへ突如、警察が入ってきて帆高と凪は捕まってしまいます。帆高は雲一つない青空を見上げ、陽菜が人柱になってしまったと確信しました。

一度は警察署に連行された帆高でしたが、陽菜にもう一度会うために警察を振り切って、彼女が晴れ女となった例の廃ビルに向けて駆け出します。

バイクで駆け付けた夏美に逃走の手助けをしてもらい、帆高は廃ビルにたどり着きます。屋上へ向かう途中で、帆高が逃げ出したことを警察から聞いた須賀が待っていました。

須賀は帆高に警察のところへ戻るよう諭します。しかし、帆高は聞き入れません。帆高はかつて捨てた拳銃を手に取り、頑なに帆高を警察に連れて行こうとする須賀に銃口を向けます。戸惑う須賀を前に、帆高は天井に向けて銃を撃ち、「もう1度あの人に、会いたいんだ!」と叫びます。

駆け付けた警察に取り押さえられる帆高でしたが、帆高の言葉を聞いた須賀がすんでのところで帆高の意志を尊重し、警察を妨害します。警察の目を盗んで駆け付けた凪も加勢し、帆高は屋上へとたどり着きました。

陽菜のことを想いながら鳥居をくぐった帆高は、空に浮かんでいました。

雲の上にいる陽菜を見つけた帆高は、陽菜の手を取り一緒に帰ろうと言います。しかし陽菜は自分が戻ることで天気が狂ってしまうと躊躇します。そんな陽菜に対して帆高は、たとえ天気が狂ったままになってしまっても、自分は陽菜と一緒にいたいのだと伝え、陽菜を強く抱きしめます。そして2人は地上へ落下し、廃ビルの屋上に帰ってきました。

警察に取り押さえられていた須賀が空を見上げると、先ほどまでの晴天が嘘かのように、大雨が振り出しました。

【あらすじ⑤】「狂った世界」で降り続ける雨

帆高が陽菜を救ってから3年の月日が経過しました。

3年間降り続いた雨によって、東京の街の大半は水没していました。

保護観察処分となり故郷の離島に戻った帆高は、無事に高校を卒業しフェリーに揺られ東京に出てきます。

3年前に「晴れ女」の依頼を受けていた冨美や、事業が上手くいき始めている須賀を訪ね、変わってしまった東京の惨状について聞きます。

帆高は須賀に促され、3年ぶりに陽菜に会いに行きます。帆高は陽菜を連れ戻したことにより世界を変えてしまったことを心苦しく思っていました。

しかし、「晴れ女」の力を失った陽菜が空に向かって祈っている姿を見つけ、帆高は陽菜と生きていくと決めていたことを思い出し、彼女を抱きしめた後にこう言います。

「僕たちはきっと、大丈夫だ」

『天気の子』の3つの謎をネタバレ解説と考察

『天気の子』のネタバレあらすじを紹介してきましたが、作中には意味深なシーンや気になる点がいくつかありました。ここからは映画を観た人が特に気になる部分を3つピックアップして考察していきます。

水の魚は何を表している?

天気の子_水の魚_陽菜
引用元:映画『天気の子』

『天気の子』には、雨のしずくが魚のように跳ねて見える場面が登場します。また鯨のような形をした水の塊が空に浮かぶ場面もありました。作中のSNSでも画像や動画が投稿され話題になっていましたよね。

これら「水の魚」は一体何を表しているのでしょうか。

新海誠監督はインタビューで、

「陽菜が空の世界へ訪れたときに、魚のような小さなものがたくさん飛んでいるのを見ますよね。先ほど人間が見える可視光のお話が出ましたけど、陽菜は、可視光以外の光の波長が見える存在として描いている」

引用元:対談「空のなかの出来事が、私たちの営みを変える」

「人間には大気中に溶け込んでいる水蒸気は見えませんよね。でも水蒸気は確かに実在していて、陽菜は天気の巫女としてその水蒸気の流れが見えている。」

引用元:対談「空のなかの出来事が、私たちの営みを変える」

と話しています。

つまり、「水の魚」は水蒸気で、通常見ることのできない水蒸気が「天気の巫女」である陽菜には「水の魚」のように見える、ということです。

しかし作中では、マンションに住む小さな男の子をはじめ、多くの人が「水の魚」を目にしており、SNSでも話題になっています。

なぜ「天気の巫女」である陽菜にしか見ることのできないはずの「水の魚」が、たくさんの人に目撃されているのでしょうか。

それは「天の気のバランス」が崩れたことが、人々の認知能力に影響を与えたからではないかと考えられます。

まず、作中に登場する2人の人物とその発言に注目してみます。

1人目は、物語の序盤に帆高と夏美が取材した占い師です。

2人が取材した占い師は、
「今は天の気のバランスが崩れているから、晴れ女や雨女が生まれやすい」
と言っています。

また、占い師からは「龍神」という言葉が出てきます。龍神は日本の神話や民話に登場する守護神で、その多くが天気を司る神です。

2人目は、夏美と須賀が取材で訪れた神社の神主です。

神主は取材の中で、

「天気とは天の気分」
「天気の巫女は、天気を治療するのが役目」
「天と人を結ぶ細い糸、それが天気の巫女」

などと言っています。

また、この神社には「天気の巫女が見た景色」が描かれた絵があり、そこには龍や「水の魚」が描かれています。

占い師と神主の発言から、龍神は天そのものであり、「天の気(天気)」は「龍神の気分」と言えるのではないでしょうか。

陽菜は「天気の巫女」なので「水の魚」を見ることができると前述しました。「天気の巫女」は、龍神と深いつながりを持っています。

つまり、深いつながりを持った龍神の力が影響することで、陽菜には通常見ることのできない「水の魚」が見えているのです。

「天の気のバランスが崩れた=龍神の気分が不安定になった」ことが原因で、陽菜ほどではないにしろ不特定多数の人に龍神の力の影響が及んだ結果、「水の魚」は多くの人に目撃されることになったのだと思います。

帆高が手にした「銃」が持つ意味

銃を構える帆高
引用元:映画『天気の子』

作中に登場する銃は、『天気の子』において不気味な存在感を放っています。

実際ネットで『天気の子』の評判を調べると、
「銃はいらない」
「銃にはどんな意味があった?」
という意見や疑問が多く見受けられます。

新海誠監督は、なぜ帆高に銃を持たせたのでしょう?

それは、他ならぬ新海誠監督自身が「銃」を欲していたからではないでしょうか。

もちろん「銃」と言っても、本物の銃が欲しかったわけではありません。この作品に登場する「銃」は、「不条理に抗うための圧倒的な力」として用いられています。ここで言う不条理とは「自分だけの力ではどうにもできない状況・相手」を指します。

『天気の子』で描かれている不条理、それは「暴力」「常識」「神」「権威」そして「民意」です。

それは、帆高が銃口を向けた相手に注目することで分かります。

まずは陽菜を怪しげな仕事に誘うスカウトマン。スカウトマンは身体的な力の差で帆高に馬乗りになり一方的に殴ります。スカウトマンは「暴力」という不条理を体現していると考えられます。

次に陽菜を助けるために廃ビルの屋上に向かう帆高を制止する須賀。須賀は帆高に対し「いい加減大人になれよ」と言い、人生を棒に振ろうとしている帆高を諭します。帆高の立場から見ると、須賀は「常識」を押し付けてくる存在です。

そして次に、帆高は銃口を空に向けました。空は陽菜のいる場所であり、陽菜を人柱として連れて行った存在でもあります。前述したようにこの作品では空(天)は、龍神そのものです。「神」という人知を超えた存在に向かって、帆高は銃を構えていました。

その後帆高は、突入してきた警察に銃口を向けます。警察は、社会秩序を守るために権限を与えられた存在、つまり「権威」です。陽菜を助けるために廃ビルの屋上を目指す帆高にとって、警察は到底敵わない相手であり、抗わなければいけない相手でした。

最後に帆高が銃口を向けた相手は、「映画を見ている私たち」です。

須賀と警察に銃口を向けた後に画面は切り替わり、震える手で銃を構える帆高を正面から映し出します。その時に銃口を向けられているのは、私たちです。

「人柱1人で狂った天気が元に戻るのなら、俺は歓迎だけどね。ていうか、みんなそうだろ」

引用元:映画『天気の子』

これは須賀が作中で口にした台詞ですが、これを聞いたときにドキッとした方も多いのではないでしょうか?

もし仮に、フィクションではなく現実の世界で同じことが起こったとしたら、多くの人が須賀の台詞のように考え、陽菜の犠牲を見ないふりをするのではないでしょうか。これは「民意」という不条理と言えます。

「みんな何も知らないで、知らないふりして」という帆高の発言は、私たち映画を見ている1人1人に向けられた言葉だったのかもしれません。

そしてこの「民意」こそが、新海誠監督が「銃」を欲し、抗いたかった不条理なのではないでしょうか。

新海誠監督は、2019年8月に発行された「月間ニュータイプ」で「僕が描きたいのは、いつも個人の願いの物語です。」と語っています。『天気の子』はまさしく帆高が個人の願いを貫き通す物語となっています。

しかし帆高の願いがもたらした物語のラストは、「民意」とは相反するものでした。
雨は降り続け、東京の大半は沈没し、生活を変えざるを得なくなった人々が描かれています。

「結末に納得できない」
「帆高の行動は無責任すぎる」
「非現実的だ」
映画を見た人からは一部、このような批判の声が上がりました。

しかし、この結末こそ新海誠監督が描きたかったものだったのだと思います。

前作『君の名は。』が想像を超える大ヒットを記録し、その次の作品が注目を集めることは分かり切ったことでした。新海誠監督は批判がくるのを分かったうえで、あえて物語の結末をあのようにしたのでしょう。

そして銃口を観客に突きつけた。

その直後に帆高は「ほっといてくれよ!」と叫びます。
これは、新海誠監督の叫びでもあったのではないでしょうか。

須賀が涙を流した理由は?

須賀が刑事との会話のなかで、無意識に涙を流したシーンが印象に残った人は多いでしょう。

なぜあの時、須賀は涙を流したのでしょうか?

あの柱に刻まれているのは、三歳までここで育った萌花の身長だ。
明日花の文字もある。文字も記憶も、まるで数日前のような鮮やかさでそこにある。

須賀「そんな話、おれにされても・・・」

そこまでして会いたい人。帆高にはいるのか。俺にはどうか。
全部を放り投げてまで会いたい人。

世の中全部からお前は間違えていると嗤われたとしても、会いたい誰か。

俺にも、かつてはいたのだ。明日花。
もしも、もう一度君に会えるのだとしたら、俺はどうする?俺もきっと――。

引用元:小説『天気の子』

須賀は、明日香のことを思い出して泣いていたのです。

陽菜を助けるために警察から逃げ出した帆高について、刑事が「彼は人生を棒に振っちゃってるわけで、そこまでして会いたい子がいるってのは、私なんかにはなんだかうらやましい気もしますな」と言っているときに、明日香の字と萌花の身長が刻まれた柱が、須賀の目に映ります。

須賀は考えます。全てを放り投げてまで会いたい人が自分にはいるのか。そして須賀は、明日香のことを思い出します。

もしももう一度明日香に会えるのなら、自分もきっと帆高のように全てを投げうってでも会うことを選ぶだろうと、須賀は思う。

須賀には明日香という会いたい人がいて、その人に会えないことの悲しみから涙を流したのでしょう。

ラストシーン「大丈夫だ」に込められたメッセージを考察

『天気の子』は、陽菜を救ってから3年が経ち、降り続く雨によって沈没した東京に来た帆高が、陽菜と再会して物語が終わります。

このラストシーンで帆高は陽菜に対して「僕たちはきっと、大丈夫だ」と言います。

この台詞には、どんなメッセージが込められていたのでしょうか。

帆高は、陽菜と再会する前に、かつて「晴れ女」の依頼で訪れた老婦人・冨美と須賀の元を訪ねています。そこで帆高は、「沈んでしまった場所は元々は海だった」、「世界は最初から狂っていた」と言われ、今の世界の状況は誰のせいでもないのかもしれないと考えます。

しかし、帆高は陽菜のアパートに向かう坂の途中で、今もなお晴れを祈る陽菜の姿を目にして、自分が陽菜と共に生きることを選んだことで、世界を変えてしまったのだと確信します。

選択には、その結果に対する責任が伴うものです。

帆高が負う責任は、「世界を変えてしまったことを忘れずに、その重圧を陽菜と共に背負いながらも生きていくこと」なのだと思います。

『天気の子』のサブタイトルは「Weathering With You」です。

Weatheringは、「困難を切り抜けていく」という意味なので、この物語は「あなたと共に困難を切り抜けていく」という物語なのだということが分かります。

つまり帆高が最後に言った「大丈夫だ」には、「陽菜と共に生きていく」という覚悟が込められていたと考えられます。

RADWIMPSの主題歌・挿入歌を紹介

『天気の子』では、前作『君の名は。』でもタッグを組んだRADWIMPSが、主題歌をはじめ全ての音楽を担当しています。

特に歌詞の入っている『風たちの声』『愛にできることはまだあるかい』『グランドエスケープ』『大丈夫』は、主人公・帆高の心情を的確に表現しており、作品の中で重要な役割を果たしています。

それぞれの曲の使われたシーンと共に歌詞を紹介していきます。

『風たちの声』

『風たちの声』は、帆高が東京に出てきて須賀の事務所で働き始めた後に流れる曲です。

暗い描写が多かった序盤から、シーンが切り替わると同時にこの曲が流れはじめ、雰囲気がガラッと変わり明るくなります。帆高の環境や心境の変化を見事に表現しています。

風が僕らの前で急に

舵を切ったのを感じた午後

今ならどんな無茶も世界記録も

利き手と逆で出せるような

気がしたんだ

本気でしたんだ

引用元:RADWIMPS『風たちの声』

家出してきて仕事も見つからず「東京ってこわい」と言っていた帆高が、自分の居場所を見つけたことで、何もかもうまくいきそうな予感を抱いていることがよくわかる歌詞です。

『愛にできることはまだあるかい』

『愛にできることはまだあるかい』は、作中で1回とエンドロールで1回、その他にもインストゥルメンタルとして作中に何回か使用されている『天気の子』を代表する曲です。

この曲は、帆高が陽菜を助けるために廃ビルで須田と対峙し、拳銃を空に向かって放った後から神社の鳥居をくぐるまで流れます。

何も持たずに生まれ堕ちた僕

永遠の隙間でのたうち回ってる

諦めた者と賢いものだけが勝者の時代に

どこで息を吸う

支配者も神もどこか他人顔

だけど本当は分かっているはず

勇気や希望や絆とかの魔法

使い道もなくオトナは目を背ける

引用元:RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』

曲の始まりは、帆高の大人や社会に対する憤りと非難が表現された歌詞になっています。

それでもあの日の君が今もまだ

僕の全正義のど真ん中にいる

世界が背中を向けてもまだなお

立ち向かう君が今もここにいる

引用元:RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』

続く歌詞では、帆高が陽菜を大事に想う気持ちが表現されているのではないでしょうか。

愛にできることはまだあるかい

僕にできることはまだあるかい

君がくれた勇気だから君のために使いたいんだ

君と分け合った愛だから君とじゃなきゃ意味がないんだ

引用元:RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』

サビでは、陽菜のために何かしたい、なんとしても陽菜を助けたいという帆高の想いが溢れだす歌詞となっています。

『グランドエスケープ(feat.三浦透子)』

グランドエスケープは、帆高が鳥居をくぐり陽菜のもとにたどり着いたときに流れ始めます。

RADWIMPSの曲に、女優兼歌手である三浦透子さんが加わったことで、ピアノや電子音、手拍子などによるサウンドが鳴るなかに、透き通るような声が響くのが特徴的な曲です。

空飛ぶ羽根と引き換えに 繋ぎ合う手を選んだ僕ら

引用元:RADWIMPS『グランドエスケープ(feat.三浦透子)』

という歌詞から始まる曲は、落下しながらも手を取り合う帆高と陽菜を象徴しているようです。

『もう少しで運命の向こう もう少しで文明の向こう』

引用元:RADWIMPS『グランドエスケープ(feat.三浦透子)』

「天気の巫女」として犠牲になる運命を否定し、覆そうとする帆高と陽菜のことを歌っているように感じられます。

夢に僕らで帆を張って 来るべき日のために夜を超え

いざ期待だけ満タンで あとはどうにかなるさと肩を組んだ

怖くないわけない でも止まんない

ピンチの先回りしたって 僕らじゃしょうがない

僕らの声が言う 声が言う

「行け」と言う

引用元:RADWIMPS『グランドエスケープ(feat.三浦透子)』

帆高と陽菜の「世界を変えてしまうかもしれない、間違っているのかもしれない」という不安や恐れと、「それでも、2人一緒ならなんとかなる」という希望に満ちた想いが表れた歌詞だと思います。

『大丈夫』

『大丈夫』は物語のラストシーンで、帆高が陽菜と3年ぶりに再会したときに流れる曲です。

この『大丈夫』という曲は、新海誠監督が『天気の子』の初稿をRADWIMPSの野田洋次郎さんに送り、その3か月後に野田さんから届いたデモ曲です。

当初、『大丈夫』を聴いた新海誠監督は使いどころが思いつかず、『天気の子』で使われる予定はなかったそうです。

しかし、物語のラストをどうするか悩んでいた新海誠監督が、デモ曲『大丈夫』を思い出して改めて聴いてみたところ、帆高と陽菜の感情が全てここに表現されていると気が付き、歌詞を元にしてラストシーンを完成させたそうです。

「全てここに書いてあるじゃないか!!」 僕はほとんど歌詞から引き写すようにしてラストシーンのコンテを描き、一年前に届いていた曲をそこに当てた。果たしてそうして見れば、それ以外は他に在りようもない、それがこの物語のラストシーンだった。

引用元:小説『天気の子』あとがき

『天気の子』にとって特に重要な曲であることが分かりますね。

世界が君の小さな肩に乗っているのが

僕にだけは見えて泣き出しそうでいると

「大丈夫?」ってさぁ 君が気付いてさ聞くから

「大丈夫だよ」って僕は慌てて言うけど

なんでそんなことを言うんだよ

崩れそうなのは君なのに

引用元:RADWIMPS『大丈夫』

歌詞に出てくる「僕」と「君」は、変わってしまった世界の責任を1人で背負い祈る陽菜を見た帆高と、そんな帆高を心配そうに見る陽菜を表現しています。

君を大丈夫にしたいんじゃない 君にとっての「大丈夫」になりたい

引用元:RADWIMPS『大丈夫』

と続く歌詞には、前述した帆高の「陽菜と共に生きていく」という覚悟が表現されているように感じます。

『天気の子』の曲と言えば『愛にできることはまだあるかい』が先に上がるかもしれないが、『大丈夫』こそ、この映画を代表する曲なのではないかと筆者は思いました。

『天気の子』と『雲のむこう、約束の場所』は似ている?

新海誠監督の熱心なファンの中には、『天気の子』を見て『雲のむこう、約束の場所』を思い出したという方も多いようです。

実際2つの作品は似ているのでしょうか?

まず「雲のむこう」の概要をご紹介し、『天気の子』との共通点などを解説していきます。

『雲のむこう、約束の場所』とは

『雲のむこう、約束の場所』は、2004年に公開された新海誠監督原作による長編アニメ映画です。

作品の舞台となるのは、戦争により南北に分断された日本。津軽海峡に国境線が引かれ、ユニオンという勢力が蝦夷(北海道)を統治しています。ユニオンは平行宇宙(パラレルワールド)の情報を受信し兵器として利用するために、白く高い塔・ユニオン塔を建設しました。

ユニオン塔の「力」を制御するために利用されたのが、ヒロイン・サユリの脳でした。サユリは3年間眠り続けています。仮に彼女が目覚めてしまうと、ユニオン塔の「力」を制御できなくなり、世界が危機に陥ってしまうのです。それでも主人公のヒロキはサユリを救おうとします。

『天気の子』と『雲のむこう、約束の場所』の共通点・相違点

『天気の子』と『雲のむこう、約束の場所』は似ているのでしょうか?

2つの作品が描く物語には共通点があります。それはどちらの作品も「ヒロインの存在と世界の安定のどちらかを選ばなけらばならない」点です。

『天気の子』で、帆高は「陽菜か世界か」という選択に迫られていました。同じように「雲のむこう」では、主人公・ヒロキが「サユリを救うのか、それとも世界を救うのか」と友人から銃を向けられるシーンがあります。銃が登場する点も、似ていると感じる要因かもしれませんね。

しかし、2つの作品には決定的に違う点があります。それは、物語の結末です。

「雲のむこう」では、多少の犠牲はあったものの、サユリを目覚めさせることができたうえに、世界が滅びることもありませんでした。

ですが『天気の子』の結末は、帆高が陽菜を選んだことで天気は狂ったままで、東京の大半が沈没してしまいます。

似ていると言われる2つの作品を見比べてみるのもいいかもしれませんね。

『君の名は。』立花瀧や宮水三葉が登場!四葉はどこに出ていた?

『天気の子』には、前作『君の名は。』キャラクターたちが作中の要所要所に登場しています。映画を見ていて気が付いた方も多かったのではないでしょうか。

また過去の新海誠作品にゆかりのある声優さんが、今回も起用されていました。

『君の名は。』のキャラクターが登場するシーンのご紹介と、新海誠監督の遊び心溢れるキャスティングについてご紹介します。

前作『君の名は。』のキャラクターたちの登場シーン

まずは『君の名は。』のキャラクターが登場したシーンを紹介していきます。

立花瀧

『君の名は。』の主人公・立花瀧は、帆高たちが花火大会イベントを晴れにした後、「お盆を晴れにしたい」という依頼をしてきた老婦人・立花冨美の家に孫として登場しました。

『君の名は。』の時よりも身長が伸びて大人びた雰囲気がありましたね。

瀧との会話がきっかけで、帆高は陽菜に誕生日プレゼントを渡すことになります。

宮水三葉

『君の名は。』ヒロインの宮水三葉は、帆高が陽菜の誕生日プレゼントを購入したアクセサリーショップの店員さんとして登場します。

三葉のトレードマークとも言える「赤い組紐」を見て、三葉と気付いた方も多いのではないでしょうか。

陽菜に喜んでもらえるか心配する帆高に、「3時間も迷って選んだのだから、喜んでもらえますよ。私なら嬉しい」と優しい言葉を書けていたのが印象的です。

宮水四葉

三葉の妹・四葉の登場シーンは見つけにくく、見逃してしまった人もいるかもしれません。

物語の終盤に陽菜が人柱となり、久々に晴れた空を学校のベランダから見上げている3人の高校生が描かれています。その中のツインテールの女の子が四葉です。

「なんか涙出るね」

とつぶやいています。

勅使河原克彦(てっしー)&名取早耶香(さやちん)

三葉の友人である勅使河原克彦(てっしー)と名取早耶香(さやちん)も登場します。

陽菜たちが「晴れ女」の最初の仕事としてフリーマーケット会場を晴れにしたときに、観覧車の中にいるカップルが映ります。そのカップルが、てっしーとさやちんです。

雨上がりに日が差し込む景色を眺めながら、

「うわー綺麗!」

「すっげー!」

と歓声を上げています。

後ろ姿だけの登場だったので、四葉と同じくらい見つけにくかったかもしれませんね。

新海誠監督作品にゆかりのある声優小ネタも!

『天気の子』に登場するキャラクターに、新海誠監督の過去作品でヒロインを演じた声優が起用されています。

作中に、陽菜の小学生の弟・凪の元カノと今カノとして「佐倉アヤネ」「花澤カナ」という名前の少女が登場します。この2人の声優を務めたのが「佐倉綾音」と「花澤香菜」です。

佐倉綾音さんは、新海誠監督とZ会がコラボして制作されたCMフィルム『クロスロード』で倉橋海帆役を演じています。

花澤香菜さんは、『言の葉の庭』『君の名は。』に登場した雪野百香里役を演じています。

作中では、アヤネとカナが児童養護施設を訪れた際に、お互いの苗字を逆にして書くといういたずらも描かれています。一瞬のシーンなので注意深く見ないと気が付かないかもしれません。

ぜひこの2人にも注目してみてください。

『天気の子』ネタバレ考察に関するまとめ

映画『天気の子』は、主人公が大切な人と世界とを天秤に掛けられ、最後には大切な人を選ぶという物語です。

新海誠監督らしい緻密に描かれた都市の風景や雨の描写に加え、RADWIMPSの曲がストーリーの展開に合わせたタイミングで流れることによって、作品により没入することができます。

『君の名は。』のキャラクターが登場したりしていて、前作のファンが楽しめる要素がありました。

主人公・帆高の言動や物語の結末から、賛否両論を呼んだ作品でしたが、鑑賞するたびに発見のある映画になっています。まだ観たことがないという方はもちろん、観たことがあるという方もぜひこの機会に鑑賞してみてください!